二つの親 7

「淳也、今度こそはもしかしたら再審請求何とかなるかもな、警察も尻を上げたようだよ。」

高雄は感慨深げにそう言って純也の肩を叩いた。

それでも純也は不安だった。この十四年間何度も請求しては却下されて来た。その経緯がそうさせるので有る。

「どうも有村さんの力らしい。」とポツンと高雄が言うと、

何だかその人物と会ってみたくなる。

純也は会ってみるか、ふとそう思った。会おう、純也はそう気持ちを固め始めた。
「父さん、一度僕皆と会ってみたいんだけど。」
新聞に目を通して居た高雄が淳也を見た。
「おう、いいぞ、今度の日曜日に再審請求の会議がある。そこに出てみるか?」
願ってもない事だ。母ちゃんも行くだろう…、そこまで思って少し躊躇った。
少し考えて高雄に思い切って聞いてみた。「僕、母ちゃんに会っても良いのかな?。」勿論、由美子では無く光の事だった。その由美子は風邪気味で早くに部屋に篭っている。
高雄は驚いた。こんないい大人になってまだ僕らに遠慮してるのかと思うと悲しかった。
「おお、いいぞ、暫くぶりだものなぁ、喜ぶぞきっと。」と言うと
「だって、父さん、母ちゃんは僕に会わないで父ちゃんを助ける事に命をかけて来たんだ。今更僕と会ったらどうなるんだろ?」
その言葉に高雄は驚いた。そうだったのか、と思った。可哀想な事をしたと思うと厳しい顔になって
「会いたくない筈無いじゃないか!14年も我慢して。光さんも、清志さんも純也の親に違いないじゃ無いか!俺らもあの二人も純也の親だよ。家族何だよ!
会おう。大きくなったお前を見て貰おう!」
純也は言葉にして来なかっだが、本当は、この14年一度も会いに来ようとしなかった母ちゃんが自分を邪魔と思っているので無いかとあの二年生の時から胸の奥でそう思って居て、否定したり、そうでは無いと考え直したりと不安が有って、ここの親二人に聞く事を遠慮してたのである。その時高雄が席を立って自分の部屋に行った。
戻った高雄は大きな箱とともに帰って来ると其れを淳也の目の前にドンと置いた。いっぱいの封筒だ。純也の目がそこに張り付いた。どの封筒でも良いから読んでみろ。と促した。一番上の封筒を手に取り裏返してみると生田光と書いてある。(母ちゃんだ!)どの封筒を取っても其れは同じだった。
、拝啓

皆様お元気ですか?私はいよいよまた再審請求に向けてこちらの運動員さんや弁護士事務所の方達と頑張っています。
あの事件の容疑者らしい人も見つかって警察も今度は重い腰を上げたみたいです。長い間の努力が実るよう願っております。
お知らせがあります。十月の十八日の日曜日にそれに向けての会議を午後一時から行います。お知らせまで。
その後には

純也は進路の事頑張ってますか?
私は大きな希望は無いのですが、あの子は社会の矛盾を見てみる振りをしない、そんな事が出来る将来を掴んで欲しいと願うばかりです。鈴木先生のところの子供にして頂いて大学も行かせて貰う事が出来ました。、私には余りある幸せです。風邪などひかないように身体に気をつけてご両親様の子として恥ずかしくない純也であって欲しいと思っております。皆様ご自愛下さいませ。

敬具
十月九日
生田光
鈴木高雄様
この大きな箱の全部がこのような内容の手紙である事は読んでいて純也には理解出来た。
「それだけじゃないん無いんだ、押し入れにまだ二箱有るんだよ。純也が来て直ぐから手紙が届くようになってね。十四年だものな。
お前には二つの親があって、同じ思いで育てて来たんだ。だが、会えない分母ちゃんは辛かったろう。」
そこまで聞くと涙が溢れてきた。
文面から、離れていても自分の子どもを心配する母親の愛情が押し寄せて来てるのを感じた。
僕は二つの親から感謝し切れない愛情を貰って育って来た。其れが22歳の青年の心にしっかりと今、染みて分かったのである。
その夜、日曜日には小平の会議に出席する事を親子で誓ったので有った。

             8に続く