二つの親 9

有村や、支援者の熱意を純也は目の当たりに今見ているので有った。胸に込み上げる熱い物。其れは一体何であるのか彼はまだ分からずに動揺している。🌸ここまてまが8

それから一時間の時を支援者はワイワイ

言いながら、三々五々帰って行くと家族だけになって、知らぬ間に用意されていた夕餉を囲む事になった。

予想していたのか居ないのか、すき焼きだった。とても美味しそうな和牛が食べきれないほど用意され、荒く切った野菜やしらたき、豆腐、新鮮な卵。卵は今でも農家している方からの頂き物だと叔母が笑顔で言う。

「しかし、純也、ほんとに大人になったなぁ〜。」と叔父が感慨深げに言う。

「清志君があんな事になってから会えなかったものな、さぁー食え、ご飯もいっぱい炊いてあるぞ。」とコロコロした身体を揺すってコロコロ笑う。叔母が口を挟んだ

「あら、ご飯だけじゃないのよ。こんなにお肉だって有るじゃない!光さんがね、用意したの。鈴木さんから電話貰ってからね。ソワソワして何だろう?と思ってたら泣きながら財布持ってね。」

光が言う、「ここののそばに花小金井ってところがあってね。花小金井駅の少し手前に美味しいお肉屋が有るの。そこの和牛買い占めて来たのよ。」

純也は嬉しかった。確かに14年の月日会えなかった。

その時間は長いものだったが、自分には鈴木の母さんと父さんがいて、寂しく思った事は殆ど無かった。でも母ちゃんはきっと寂しくて、心配でたまらない日を過ごしていたんだろう。

そんな事を思ったのである。

確かに子どもと暮らせないのは光にとって身を裂かれるくらい辛かった。でも、一番安心な所に其の子供はいてしっかりとした大人に育てて貰える安心感も有った。

だから清志の再審申請の活動に没頭出来た。

其の息子に会える、その喜びはきっと皆も感じて居た以上な物だったろう。

久しぶりに大勢での食事をしてそろそろ帰ろうかと準備をしていた。

そこに電話が鳴り響いたのである。

「はい野村です。」と叔母が出ると、伊藤弁護士からのものだった。夜の9時を過ごし過ぎて居る。あの落ち着いている筈の伊藤の声は弾んでいた。

「野村さん!よく聞いて!中川が全部吐いた!」

「え!、ち、ちょっと待って!あなた、あなた、伊藤弁護士さんから!早く」とせかせて叔父に替わると伊藤の話を頷きながら聞いて居たその目からボロボロ涙がこぼれている。

「はい、分かりました。再審請求、これで確実に通りますね!」と今度は笑い顔に。

ガサ入れした時に完成した時限爆弾が中川の押し入れから見つかり、其れを攻めたら、店ごと吹き飛ばしてやろうと思っていた事、其れは跡取りとして自分を認めなかった親方への憎しみと、今認められて居る調理人に対するヤキモチからで、

同じ理由で知り合いのそれとは何の関係も無いホステスの女を刺殺し、清志に罪を押し付けたと自白に至ったのである。正式な逮捕状を取って、逮捕に到ったとの事。確実に起訴され検事の取り調べを受けることになる。

それを聞くと光は泣き崩れた。

「もう少し、もう少しでもいいから早く捕まえて欲しかった。」と言いながら。純也は母ちゃんを抱き起こすと「ぞだねそだね。」と背中を撫でる純也の手は大きくて、らからの背中は頼らない程細い。この母のこの十五年の苦労が伝わって来る。

鈴木の両親も、叔父叔母も皆泣いていた。

確かに免罪が晴れて刑務所から出れて、犯罪者の看板は外れても国で決まっている其れに対しての謝罪金は其の収監されていた一日に対して千円から多くて一万二千五百円と決められている。其れも手続き等難解ですんなりとは行かないのが実情であろう。認められずに処刑された人や極中で病死した免罪であろう人達の其の気持ちを思う時

作者も悔しいのである。

たが今ここにいる家族には謝罪金の事など眼中には無かった。ただ嬉しかった。

あ!っと叔父が叫んだ。早く皆に知らせなきゃ!

そこで皆大笑いしたのである。

これからが正念場である。中川にも弁護士が付く。それによって供述をひっくり返す心配も無い事では無い。だが今回は強要された自白では無いし、時限爆弾と言う物証も有る。幸いにも其れは未遂に終わった訳だが。

伊藤弁護士もその辺の事を最後に話していた。

そして有村は其れを聞くと血相を変えて武蔵野北警察署の捜査課に飛んで行ったそうである。

其れを冷静な目で見ていた純也は自分の中で何処かぼんやりしていた進路がもしかしたら開けたと感じて居たのである。

                             10に続く