二つの親 5

其れは光にとって、どれほど力強い味方で在ろうか。
一筋の光が差し込んだようであった。
中川浩は事件から12年たって、勤め先には辞めると言い残し、それから三年の間行方が掴めないままであった。携帯も使用を辞めたか新しく購入したかでそこからは所在を掴む事は難しい。その行方を必死に探しているところである。
有村は中川を本ボシと定めて疑わなかった。あらゆるツテを辿ってその足跡を追っている。弁護士事務所の若い見習いである、木島康介(23歳)が其の相棒として有村と其の捜査に当たっていた。
康介もまた熱い青年であった。
イノセンス免罪弁護士のあの主演男優に似てると自分では豪語して止まないのだが…。ま、自由ではある。
事務所は高田馬場の駅近くの小さなビルの中に有った。
その康介のデスクの電話が鳴った。
丁度中川の足取りをこれまで寄せられた、そうでは無いかと思われる目撃証言を端から書き出してホントらしい証言をつまみ出していた所であったので電話の音に少し驚いて慌てて其れを取っのたのである。
それは生田の勤めていた料理店、武蔵境北口商店街から少し離れた道沿いに有る料亭、曙、のフロワーの店員、吉田美佐子からであった。何回も顔を見て知っているおばさん店員である。
「あの、あ、木島さんですか?」
「はいそうですが、吉田さんですよね。どうされましたか?」と促すと
「私、昨日の夜、中川さん見たんです。」と言う。
「え、ほんとですか?」と言いながら有村にサインを送った。有村も受話器を取る。
「間違い無いと思うんです。武蔵境の北口のタクシー乗り場で。」
「それでどうしましたか?」
木島はその答えに焦れた。それに耐えながら返事を待った。
「私彼から後ろを向いてたんです。顔知ってますから。」
「そしたら列から離れて小金井方面に歩き出して、悟られたかな。と思ったんですけど、私その後をつけたの。」
「何でそんな危険な事を!」
「そう思ったのですけど私どうしても気になって。」
「何処へ行きました?」
「武蔵境の南口にでて真っ直ぐ三鷹市の近くまでいくと左に曲がりました。私土地勘無くてね。東京ガスの店を超えた路地で辺りを気にしながらその路地に入って行きました。それ以上は私怖くて。」そこまで聞くと
「当たり前です。そこまでで充分です。もう危険な事はしないで下さいね。」と康介が窘めると、彼女は話した。「私どうしても生田さんという板前さんがあの事件起こしたと思えなくて、其れに中川さん生田さんの事恨んでたし。」
初めて聞く言葉だった。
有村が割って入った。
「その話詳しく知りたいのでお会い出来ませんか?」と言うと少し躊躇ってはいたが彼女は仕事が終わってからなら何時でも。という事で、今夜閉店時間に迎えに行くことの約束を取ったのである。なるべく店から遠いところで話したい。中川に気づかれたら彼女も危険になる可能性もあるからだ。
有村は康介に言ったのか、
「これは大きく動くかも知れない。」と窓から見える都会のビルのネオンを見ながらボソッと呟いた。だが其の眼は確信に輝いて居た。💐
「喜久子さん先生は何時頃帰る?」
弁護士資格の勉強をしながら事務員をして居る尾上喜久子に確認した。「もう戻られますよ。三時までの先方との打ち合わせですから。」
時計を見ると三時を少し回っている。
「有村さん先生間に合いますね。」と言うと、ウンウンと頷く。
有村は其の尾上事務官と、康介を見ていてつくづく思う、若いのは宝だ。この若者たちがこれからの日本を背負って行く。
ただ捜査の手伝いしか出来ない自分が悔しいのだ。
だが1つの免罪を晴らせるかも知れない事に闘志を燃やしている自分に悔いは無い。そうとも思い返していた。
その時「あ、!」っと書き出しの続きを見ていた康介が大きな声を出した。
「有村さんこ、これ見て下さい!」
それは三鷹駅で声をかけた人で。、時々似てる人を見る言う仕事帰りのサラリーマンの証言で有った。

 

 

 

                  6に続く