二つの親 初公判

第1回公判 立川地方裁判所の重い扉が鈍い音を立てて開いた。 その音は清志の背中を押すようでもあり、後戻りを許さぬようでもあった。 刑務官に付き添われ法廷に足を踏み入れる。 空気が違う。冷たい静か過ぎる。 緊張した彼の目には傍聴席の光と忘れる事が…

二つの親

検事の取り調べ 長いその廊下を手錠をかけられて入った部屋は、担当検事の雨海民生(うかいとみお 32歳。)の執務室であった。入るなり、まだ若く身体付きはヒョロとして何処か異様な感じのする男に見えて、傍に座る秘書の方が検事らしいな、と清志はそう感じ…

刑事を辞した男

刑事を辞した男 横田は警察を憎んでいる訳では無かった。 警察を去って二日目の事である。 この事務所の主、二階堂進(にかいどうすすむ 52歳。)弁護士は敏腕な冤罪弁護士として名を馳せている。 横田が法学部で学んでいた時、臨時講師として教壇に立った。其…

二つの親 警察を辞した男

刑事を辞した男 横田は警察を憎んでいる訳では無かった。 警察を去って二日目の事である。 この事務所の主、二階堂進(にかいどうすすむ 52歳。)弁護士は敏腕な冤罪弁護士として名を馳せていて、横田が法学部で学んでいた時、臨時講師として教壇に立った時、…

二つの親 2

検察検事の取り調べ 長いその廊下を手錠をかけられて入った部屋は、担当検事の雨海民生(うかいとみお 32歳。)の執務室であった。入るなり、まだ若く身体付きはヒョロとして何処か異様な感じのする男に見えて、傍に座る秘書の方が検事らしいな、と清志はそう…

2つの親 1

二つの親 1 虐 め 世間は無常に陥る事が多々在る。大人の世界は其れも辛辣極めるが、子供の世界も其れは同じで、其の幼い思考故に、場合に依り其れは大人よりも辛辣となるので在る。 ー今、目の前に居るこの純也に、・・私はどうしたら生きる勇気を引き出し…

先生の虐め

先生の虐め あれは小学4年生に進級したばかりの事と記憶している。 進級して担任が代わり、新任教師はあの頃は珍しく無かった、代用教員の男性教師。 仮に渡辺先生としておこう。 その頃、クラス委員をしている子の母親との不倫の噂が親同士でもちきりとなっ…

無くなったスリッパ

無くなったスリッパそれは、建て替え前の古いアパート形式の我が家での出来事である。私たちが住んでいたのは二階部分で、外階段を上がった先に玄関があった。すでに他の住人はおらず、玄関の鍵は普段から掛けていた。 それなのに、時折、トイレへと続く廊下…

二つの親 8

支援者の会議室は光の住む兄の家の書斎であった。小金井街道を清瀬方面に車を走らせていくと小平市に入ったところの鈴木町の交差点を左に曲がるその道道は古くからある大きな農家が何族か並び、新しくビルが建ったりと旧新の時代が入り交じった町並みだ。鈴…

二つの親 7

「淳也、今度こそはもしかしたら再審請求何とかなるかもな、警察も尻を上げたようだよ。」 高雄は感慨深げにそう言って純也の肩を叩いた。 それでも純也は不安だった。この十四年間何度も請求しては却下されて来た。その経緯がそうさせるので有る。 「どうも有…

二つの親 6

三鷹市井口に住むサラリーマンは櫻井と、名のっている。その日、飲みに三鷹駅に降り立った。そこで支援者に聞かれたのである。武蔵境と三鷹市の間を通る富士見通りの信号を超えて少し深大寺町に向かったところに自分のマンションが有る。富士見通りの角のコ…

二つの親 5

其れは光にとって、どれほど力強い味方で在ろうか。一筋の光が差し込んだようであった。中川浩は事件から12年たって、勤め先には辞めると言い残し、それから三年の間行方が掴めないままであった。携帯も使用を辞めたか新しく購入したかでそこからは所在を掴…

二つの親 4

日本の法の元では結審した刑を裁判のやり直しに持って行くのは本当に指南の技でとてつもない時間をかけて命を削って支援者達が立証し嘆願しても差し戻し裁判が棄却される事は珍しく無い。 汚名を着せられた者が悔し涙を流してどれだけの受刑者が犯罪人のまま…

二つの親    3

純也は鈴木夫婦の影響を受けて正義感の強い青年と育って居た。そして二つの親を持って違う世界を見つめて来た事が其の人としての精神を形成していたので有る。法学部で学んで居るが進路を決めなければならない時期が来て居た。産みの父親が無実を訴えて続け…

二つの親 2

光はその間に夫、生田清志に担当の伊藤弁護士を伴って面会をした。純也を養子に出すとなれば正式な手続きを踏まなければならないからだ。清志は涙ながらも我が子の幸せを願い養子に出す決心をしたのである。ただその清志の姿は痛ましく、「やっても無い事で俺…