二つの親 10

其れを冷静な目で見ていた純也は自分の中で何処かぼんやりしていた進路がもしかしたら開けたと感じて居たのである。

🌸ここまでまでが前回

 

弁護士の資格を取る。

そう高雄に話したのはそんな事が起きた数日後の事であった。

丁度、創応大のキャンパス食堂で珍しく親子で食事していた時の事だ。

息子のその決意は、高雄にとっては想像の内だったのである。

この子ならその道へ進むのかも知れない。

そんな思いがしていた。

其れはあの支援者の会議で野村宅へ行った時から何となく高雄に住み着いたのだ。

純也の顔をじっと見つめる父の眼は相当に大変な道となるよ、やるなら徹底的にやれ、と言っているようで、それを感じ取った彼は言った。

その試験は来年の夏前の事になる。

幸い純也は法科の学生で成績も群を抜いていた。

厳しいのは変わらないが親として応援をする覚悟は付いていた。高雄にとって本当なら望めない子で在った筈である。それに恵まれて今その子が真っ直ぐな道を歩いている事が嬉しくも頼もしくも有ったのである。

「父さん、確かに道は険しいけれど、僕は頑張る。」

「罪を問われた人達に撮って弁護士はどんな罪だって、最後の砦となると思うんだ。そんな人達の力になりたいと考えてるんだ。」

その言葉に高雄は真顔のまま頷いた。

息子は普通の弁護士になろうとしているのでは無く、きっと伊藤さんの様な弁護士になりたいのだろう。

そしてあの有村さんの熱意もそれを決めさせたのだろうな。

と、そう思った。

だがこの年も早十一月の初め、試験は来年の七月になろう。

その道を極めるには余り時間が残されてない。大学院に残り、其れを目指すのもいいか。

そんなふうに思い高雄は食後の珈琲に口を付けた。

二人とも言葉数の少ない、

本当に不器用な似た者親子である。

   中川に対する裁判は丁度其の辺りで結審を見るであろう事は今相対して話している親と子は理解している。そしてその頃15年の刑期を終え清志も出所する。来年どんな夏を迎えるのかと純也は思いを馳せていた。

                                          続く